パチンコは「一時の娯楽に供する物」を賭ける賭博である
風営法と賭博罪について
風営法の規制の下、パチンコという遊技ができるわけですが、パチンコという遊技の性質上、賭け事に類似した行為であり、ゆえに賭博罪との兼ね合いが気になるところであります。
今回は特に風営法に基づいたパチンコ営業は「刑法35条の法令行為」に該当するのか、しないのであれば、どういうことなのか見ていきます。
風営法が賭博罪の違法性を阻却するのか
結論から申し上げますと、風営法が刑法上の賭博罪の違法性を阻却するものではありません。
刑法35条に
(正当行為)
第35条
法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
とあります。つまり、賭博罪に該当する行為について法令(特別法)がある場合、法律に従って行われるのであれば、法令行為(刑法35条)として違法性が阻却されます。
では、風営法が特別法にあたるのか、風営法が賭博罪の違法性を阻却するのか、という疑問が起きます。
風営法を所管する警察庁生活安全局生活環境課の課長補佐であった蔭山信氏の著書によると、
風営法は、そのような犯罪とされる行為の違法性を阻却するものではない。
とあり、風営法が賭博罪の違法性を阻却するものでないと、解釈されています。
カジノの専門研究者、木曽崇氏は次のように解説しています。
どこぞの判った風な人間が「木曽は違法性阻却を軸に説明をしなければいけなかった」とか言ってて、失笑しかない。風営法は公営競技等の特別法と違って、刑法賭博罪を違法性阻却する法律ではないです。賭博罪の但書規定による適法行為と、特別法による違法性阻却の違いはちゃんと理解しましょう。
— 木曽崇@国際カジノ研究所:「飯テロ」注意報発令中 (@takashikiso) 2020年5月3日
では、パチンコが特別法により合法化されていなとすれば、どのようなもので合法化されているのでしょうか。
それは先ほどの木曽氏のツイートの中に答えがあります。
「賭博罪の但書規定による適法行為」が、パチンコが合法であるという理由であります。
パチンコは賭博罪のただし書規定による適法行為
賭博罪の条文
(賭博)
第185条
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
木曽氏のツイートでの「賭博罪の但書規定による適法行為」というのは、「ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」にあたるので、賭博罪に該当しないということになります。
ここでいう「一時の娯楽に供する物」とは、『関係者が即時娯楽のために費消するような寡少のもの』をさします*1。
パチンコで遊技の結果に応じて提供される賞品について、「一時の娯楽に供する物」にあたります。
刑法185条の但し書きについて、賭博罪の構成要件該当性が否定されるとする見解、可罰的違法性が阻却されるとする見解があります。
法務省の見解
○盛山副大臣
一般論としてお答えをすれば、当該パチンコが刑法百八十五条の賭博に該当するとしても、同条ただし書きの「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」に該当する場合には、賭博罪には当たらないと我々は考えております。
第192回国会 衆議院 内閣委員会 第9号 平成28年12月2日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示
パチンコにつきまして、個別の事案におきまして、犯罪の成否は個別の事案において収集された証拠に基づいて判断すべきものでありますし、パチンコと一口に申しましてもいろんな形態があるものと思いますので、必ずしも一概にお答えすることは難しい面もございますけれども、いわゆるパチンコ営業につきましては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の範囲内で適法に行われているというものにつきましては、刑法第百八十五条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときに該当し、賭博罪には当たらないというふうに理解しております。
公営競技等は賭博罪に該当する行為について法令(特別法)により、その法律に従って行われるのであれば、法令行為(刑法35条)として違法性が阻却されます。
一方で、パチンコ営業で、風営法の範囲内で適法に行われているものについては、刑法第百八十五条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときに該当し、賭博罪には当たりません。
最高裁判例
パチンコの直接的な判例ではないが、風営法に基づき、許可された色合せと称する遊技であれば判例があります。
昭和27(あ)564 「色合せ」と称する遊戯営業行為について 裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
被告人が公安委員会の許可を受けて行つていた色合せと称する遊戯営業行為は営業者と客とが偶然の勝負によつて財物を賭けるという性質を帯びていることは否めないのであるが、公安委員会が特に許可した理由は、その方法にいくつかの制限を設けこの条件の範囲内において行うならば一時の娯楽に供する物を賭ける場合にあたると認めたものと解するのが相当であり、またそのように認めたことに違法はない。
「公安委員会が特に許可した理由は、その方法にいくつかの制限を設けこの条件の範囲内において行うならば一時の娯楽に供する物を賭ける場合にあたると認めたものと解するのが相当である。」とあります。従いまして、「風営法の規制の下で行う遊技であれば、『一時の娯楽に供する物』を賭ける場合にあたると公安委員会が認め許可したものである、と裁判所は考えている」、そして、それは違法でない、ということになります。
個人的な意見として、「一時の娯楽に供する物」を賭けたものとされるために、風営法でさまざまな条件を課せられ規制されていると、考えると分かりやすいと思います。
「いくつかの制限を設けこの条件の範囲内」とは、
しかるに原判決の認定するところによると、被告人が許可の条件に違反して一人一回十円の制限を越えた遊戯券を発売し、また遊戯券を買受けた客が空気銃の弾を発射する条件を変更し多数の客を一括し任意の三名を代表として発射せしめ、さらに賞品も煙草、菓子の制限を越えて客の要求により遊戯券の購入に充てることのできる券又は現金の給付をもなすに至り、判示の期間これを繰り返したことが認められ、これを挙示の各証拠と照合してみるとその認定に誤りは認められない。
とあります。判決文からもともと許可されていたことを抜き出し一部書き加えると、
「被告人(が受けた)許可の条件(は)一人一回十円の制限の遊戯券を発売、また遊戯券を買受けた客が空気銃の弾を発射する条件で、さらに賞品(は)煙草、菓子の制限(である。)」。
つまり、「遊技料金」、「遊技の方法」、「遊技の結果に応じた賞品の制限」などの制限を設けれています。
風営法で規制下で行われている遊技は、「一時の娯楽に供する物」を賭けたものである
パチンコ営業については、風営法の範囲内で適法に行われているものについては、刑法第百八十五条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の「一時の娯楽に供する物」を賭けたにとどまるときに該当し、賭博罪には当たりません。
そして、「一時の娯楽に供する物」を賭けたものとされるために、風営法でさまざまな条件を課せられ規制されています。
*1:大判昭4・2・18